ゴー宣DOJO

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笹幸恵
2020.3.21 13:52皇統問題

読解力の無さが露呈した「産経抄」

今日の「産経抄」。
コロナ騒ぎで「立皇嗣の礼」の饗宴が中止になったことを残念がり、
皇位は「男系継承が伝統」だと相も変わらず思考停止の言葉を書き連ね、
さらに御厨貴氏×園部逸夫氏の対談(「週刊朝日」3月6日号)を
批判する内容になっている。

記事のはじめから終わりまで、理解力と読解力の無さが露呈している。
順番に見ていこう。
まず「立皇嗣の礼」について。

「立皇嗣の礼」は、皇位継承順位1位の秋篠宮さまが、
自らの立皇嗣を国の内外に宣明される儀式だという。
しかしこれは前例がない奇妙な儀式だ。
皇子が正式に皇太子となる「立太子の礼」ならある。
しかし秋篠宮さまは天皇の子(皇子)ではない。
だから「立太子の礼」は行えない(皇太子にはなれない)。
というわけで「立皇嗣の礼」になったのだろうけど、
皇嗣とは、そもそも皇位継承順位が現在1位である、
という意味に過ぎない。
順位を示すに過ぎない「皇嗣」なのに、
わざわざそれを宣明される「立皇嗣の礼」って、
一体なんなのだ?
儀式をやろうがやるまいが、順位は順位である。
産経抄の筆者は、「立皇嗣の礼」の一部が中止に
なったことを残念がっているが、
それはこの儀式の奇妙さを理解していないからだ。

その上で、天皇陛下の次は秋篠宮さま、その次は悠仁さまと、
皇位継承順位は「皇室が歴代天皇126代にわたり守り抜いてきた
男系(父系)継承という伝統上も、皇室典範という法律上も
とうに決まっている」と記している。

日本語がおかしい。
126代の天皇がずっと男系継承を意識して守り抜いてきたかのように
書いているが、そんなことはあり得ない。
1)欠史八代は説明不可
2)古代はそもそも双系
3)男系継承の意義はY染色体にしか求められないが、
古代から連綿と続く皇室がそれを意識していたと考えるのは
現実的ではない。
4)男系継承(万世一系)は明治建国(もっと言えば昭和15年、
皇紀2600年の祝賀行事で強化された)イデオロギーに過ぎない。

したがって、伝統上「とうに決まっている」とは言えない。

しかも、そうして「とうに決まっている」順位に則ると、
皇室そのものの存続が危うい。
だからこそ女性宮家の創設や、女性・女系天皇へと
道を拓こうとしているのに、「産経抄」はそこまで
想像力が及ばないらしい。
のみならず、そうした問題提起を行った週刊朝日の
対談記事を批判する始末である。

いまだに「安倍政権が封印 愛子天皇論」(週刊朝日3月6日号)などと
蒸し返すマスコミがあるからあきれる。
中身は東大先端科学技術研究センターの御厨貴客員教授と
園部逸夫元最高裁判事の対談記事だったが、
そのやりとりにさらにあきれた。


その記事は、ネットでも読めるのだが、
見事なまでの「つまみ食い」である。
記事は、ひと言でいえば、これまでの皇室典範改正にまつわる
有識者会議の議論と政権の動きを振り返った内容だ。
で、結果的に、今の安倍政権はやる気がない、
このままでは皇室の存続が危ういと警鐘を鳴らしている。
にもかかわらず、産経抄の筆者はこう述べているのだ。

「皇位継承という国の根幹にかかわる重要事が、
政権交代待望論や男女平等を求める一般論にすり替わっている」

読解力があるのかどうか、甚だ疑問である。
記事では、政権交代でもしない限り、
まともな皇位継承論議ができないと言っているのだ。
本当に皇位継承が国の根幹にかかわる重要事だと思っているなら、
この記事に同調し、それをしない安倍政権の批判に
向かわなければおかしいではないか。
さらには、御厨氏がかつて民主党政権に甘かったことを書き連ね、
「政権交代への期待が安易にあおられた結果、
日本がどうなったかは周知の通りである」と、
もはや存在もしない民主党への批判で締めくくる始末である。

問題の本質を理解しようとせず、「政権交代」や「男女平等」という言葉に
反応して、それだけを取り上げて都合よくつなぎ合わせ、
安倍政権擁護(と、相も変わらず民主党政権時代の批判)をしている。
産経の従来からの主張を示すためだけに、
悪意ある誤読をしていると言われても仕方がないレベル。
いい加減、長期政権となった安倍政権の実績を、
民主党政権時代の比較なしに論じなさい。
それこそがジャーナリズムの役割ではないか。
いまだに民主党批判って、産経抄の筆者は化石脳の持ち主か?
週刊朝日の記事にあきれた、というけれど、
私は「皇位継承という重大事」などと書きながら
その本質をまったく理解していない産経抄にあきれる。
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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